屈折矯正手術

近視の手術と総説

近視の手術というと医療におけるキワモノと見られがちだと思います。しかし、近視は眼球形態の異常(眼軸の延長)を伴う明らかな病気であり、ある一定の距離以遠を明視することができません。多くの近視の方々が、眼鏡やコンタクトレンズといった補助具なしでは日常生活が営めませんし、しかも常にその補助具を装用しなければならないという社会的、経済的ハンディキャップが存在していることもまた事実なのです。従って、近視の手術的治療は古くから試みられ、すでに18世紀には水晶体摘出による近視治療がおこなわれています。角膜に外科操作を加えることにより近視を減弱する術式を、世界に先駆けてに臨床応用したのは順天堂大学の佐藤勉先生でした。角膜前面後面放射状切開術を昭和20年代に多数例に施行し、近視治療には成功しましたが、角膜後面の切開により術後角膜内皮細胞障害を起こし水泡性角膜症となる例があり、長期的にみたその結果は満足のいくものではありませんでした。この経験が日本において、近視の手術に対しての慎重な姿勢を生み、現在に到っているようです。この術式自体はその後幾多の変遷をへて、角膜放射状切開術(RK)へと進化し、有効な近視手術の一つとして認知されています。

約10年前から臨床応用が始まったエキシマレーザーによって近視の手術はより安全かつ確実性のある手術となってきました。このレーザーは高い光エネルギーにより分子間結合を解離させる光切除によって、角膜をサブミクロン単位で平滑に切除することができます。レンズとしての役割を持つ角膜を正確に形状変化させることにより、その屈折度を定量性をもって変化させることができるのです。懸念される、長期的な角膜内皮細胞への影響も現在のところ認められていません。このようなエキシマレーザーによる近視の手術はphotorefractive keratectomy;PRKと言います。PRKは、点眼痲酔で行われ、実際のレーザーを照射するのは1分程度で済み、術後は8割以上の方が0.5以上の視力を得ることができます。術後一時的に遠視側にオーバーシュートしますが、約3ヶ月で目標屈折値に達し安定します。また最近では、単に角膜表面を削るのでなく、マイクロケラトームを使い角膜を層状に切開し、角膜実質のみをエキシマレーザーで切除するLaser in situ keratomileusis;LASIKと言った手術が開発されてきています。この術式では、術後疼痛がなく、視力の回復も早いようです。

しかし、エキシマレーザーを使った手術では、近視が強いほど多く角膜を削ることになるため、あまり強度の近視は適応になりません。また、角膜を削るのはその中心約5ミリですので、ほぼ球面であった角膜は術後中心程扁平になります。このことで、とくに瞳が大きくなる夜間に違和感を訴えることがあります。その他にも老眼の問題など、近視の治療によるデメリットも確かに存在しますので、近視の手術は患者さんの視機能の質を一元的に上げるとは言い難いかもしれません。しかし、個々の患者さんが充分にこの治療を理解し、納得したうえで手術を選択された場合、かなり満足度の高い治療であることも間違いありません。

PRK,LASIKの医学的な禁忌になるのは、屈折値の安定しない若年者、不正乱視、円錐角膜などであり、比較的禁忌なものには、膠原病、リウマチ、妊娠中等があげられます。また、白内障や緑内障等の有無も適応を左右します。従って、眼科専門医による診断が不可欠であり、手術および術後治療も眼科専門医によって行われるべきものと考えます。しかし、現時点では、非眼科専門医により行われていることも多く、トラブルが少なくないようです。今後一般眼科医によるPRK,LASIKが広く行われると予想されてますので、比較的近視人口の多い日本において、近視の手術がより安全におこなわれ、近眼で困っている方々の視生活をすこしでも改善できれば素晴らしいことだと思います。