白内障手術

フェムトセカンドレーザー白内障手術

フェムトセカンドレーザー

「フェムトセカンド」=「フェムト秒」とは時間の単位で、1/1000兆分の1秒という、想像するのも難しいほど短い時間量のことです。フェムトセカンドレーザーはそれほど短い時間での照射が可能なレーザーで、時間を短くすることで照射したい部分だけにレーザーを当てて、隣接する組織には衝撃や熱の放散といった影響をほとんど及ぼさない安全性の高いレーザーといえます。眼科領域においては、LASIK(レーシック:近視矯正手術)や角膜移植などから臨床的に使用が始まり、近年ではさらに白内障手術にも使用されるようになりました。

フェムトセカンドレーザー白内障手術

フェムトセカンドレーザー白内障手術は2008年にヨーロッパで初めて行われ、その後全世界50か国以上で導入されています。日本でも厚労省から認可を受けており、当院では2014年より使用を開始し良好な結果を得ております(図1)。

図1 LenSx®(Alcon社) フェムトセカンドレーザー白内障手術用機器

フェムトセカンドレーザー白内障手術の実際

一般的な白内障手術の手順は、麻酔後に①まず、目の中へ入るための創口を作り、②次に、水晶体を包む袋(嚢)の表面を丸く切り取り、③超音波を使って水晶体内部を細かく分割し、④中身を吸引します。⑤最後 に、水晶体嚢の中に眼内レンズを挿入します。

この手順のうち、①~③の部分をフェムトセカンドレーザーで行うことができます。

フェムトセカンドレーザーを使うことでより正確な位置・サイズ・形に切開することが可能になります。例えるなら、直線や円を描くときに、手だけで書いたものと、定規やコンパスを使って書いたものとの違いといった感じです(図2)。

図2 本文中の②をフェムトセカンドレーザーで行ったもの(上段)と通常通り行ったもの(下段)の違い

フェムトセカンドレーザーで行うと均一な大きさと形に切開できます。
(Neil J Friedman MD et al. Femtosecond laser capsulotomy. J Cataract Refract Surg 2011; 37:1189-1198 より引用)。

また、本文中の③にかかる時間が長くなると眼内の組織にダメージが生じる危険性が高まりますが、フェムトセカンドレーザーではあらかじめ水晶体を分割しておくため(図3)、眼への負担をより軽減させることが期待できます。

図3 本文中の③をフェムトセカンドレーザーで行ったもの
水晶体がルービックキューブ状に細かく分割されています。

なぜ正確な切開が可能かといいますと、その理由は主に二つあります。
一つは先ほども述べたように、レーザーが周辺組織に影響をほとんど及ぼすことなく狙ったところだけをピンポイントで照射できるだけでなく、レーザーの照射量や方向を組み合わせることで0.1mm単位で自在に切開できるからです。
もう一つは、レーザーに搭載されたOCT(オーシーティー:光干渉断層計)と呼ばれるイメージング機能によって、眼内の構造が正確に把握できるようになったことがあげられます。

図4 OCTによる眼内のイメージング
水晶体の位置や深さをとらえて正確な照射範囲を設定できる。

フェムトセカンドレーザー白内障手術の注意点

  • レーザーを照射する精密機器ゆえに、使用する部屋は温度・湿度を厳密に管理する必要があります。当院では一般の手術室とは別にレーザー室を設置しており、レーザー治療後の続きの手術は移動していただかなければなりません。したがって、通常の白内障手術よりも手術時間が長くかかる場合があります。
  • レーザー照射中に眼球が動かないように目の表面に吸引器具を装着しますが、これにより結膜出血が生じます。術後1週間程度は出血が残りますが見え方には影響しません。
  • また、眼の小さい方ではこの器具が装着できない場合があります。
  • 白内障手術を行う際は散瞳薬の点眼によって瞳孔を拡大させる(散瞳)必要がありますが、適切な大きさの瞳孔径がえられない場合は、レーザーが照射できません。
  • ごくまれにですが、レーザーに不具合が生じ術当日に使用ができなくなり手術日を延期するか、従来通りの術式へ変更せざるを得ない場合があります。